海外ランドスケープレポート
The University of Melbourne
メルボルン大学
デザイン大学院

畑山明人さんの留学レポート

はじめに
 僕はメルボルン大学でランドスケープアーキテクチャーを専攻し、今月(2008年12月)に修士号を取得するところです。メルボルン大学は新しいプログラムを去年導入しランドスケープの授業構成や教授陣も大幅に変更しました。
 僕はそれ以前のプログラムに入ったので、情報のすれ違いがあると思いますが正確な授業構成を知りたい場合は文最後のリンクを参考にして下さい。


ランドスケープのスタジオのある建物の入り口。勉強後に夜遅く建物を出たとたんこのレモンユーカリの強いシトラスの匂いがします。


学校内にある外来種は全て昔に植えられたもの。椿が開花する冬はとても奇麗です。


留学前
 僕は大学で社会学と人類学を勉強しました。三、四年時に交換留学で来ていたシカゴで都市社会学を専攻している際に都市デザインの方に強く興味を持ちました。
 その後独学で勉強をしながらアメリカやヨーロッパの大学院を探し、いくつかの授業も見に足を運びました。 最終的にはそれまで訪れた事ないオーストラリアを選ぶことになりました。
 オーストラリア特有の自然に魅了された他、ビザの取得の件、経済事情に合わせた学費や生活費の件も考慮に入れたうえでした。

 メルボルンの印象は「多民族」といった感じでした。以前いたシカゴもそうでしたが、ここはそれ以上で、日本文化もとても浸透している印象を受けました。
 巻き寿司を食べながらまちを歩いている人を見かける事も、電車に乗っている際に周りを見渡して白人が一人もいない、英語が全く聞こえてこない、という事も珍しくはありません。そういった面もオーストラリアの街は多くの日本人にとって溶け込みやすいかと思います。



メルボルンには日本のように強い路地文化があります。


学校の近くの大きな公園。植栽計画の授業ではの授業では毎週へとへとになりながら歩きました。



大学院
 オーストラリアのマスターは一般的にリサーチコースワークに分かれています。リサーチは研究のみで二年間、基本的には一つのテーマにおける研究で論文を仕上げるといった少しDrコースのような仕組みです。 僕のとったコースワークは授業を中心に単位を重ねて行き、修士論文も選択になっています。

授業内容
 デザインに必要なスキルをしっかり持っていなかった僕は最初の半年は準備期間のようなコースでドローイング中心のクラスを多く履修しました。当時はハンドドローイング中心でしたが今はコンピューター中心のようです。
 どちらにせよ文系出の頭でっかちな僕にとって何も考えずにひたすら絵を描いていたこの期間は 苦手意識をもっていた分野の克服する事でその後の自信にもつながりました。
- Landscape Graphics
- Landscape Material
- History of Landscape Architecture
- Designing Local Landscape

 建築学課のクラスはデザイン中心に技術を身につけていくといったクラスが多かったように思います。それらの必修科目に加えその後の二年は選択科目を他の様々な学部から履修することも可能だったので、僕はそれを積極的に利用し学課外のクラスも多くとりました。
- Planting Design
- Site Engineering
- Designing Middle Landscape
- Contemporary Theory of Australian Landscape
- Digital Design Modeling
- Traveling Studio (Informal Settlement)
- Applied Ecology
- Vegetation management and Conservation
- Designing Conserved Natural Landscape
- Landscape Master Studio (History)
- Advance Landscape Technology
- GIS & Remote sensing
- Sustainable Urbanism Studio
- Landscape Practice
- Permaculture

 その中でも特に印象に残っているクラスを挙げます。

Planting Design
 週一の基本的なデザインに関するレクチャーと週一度の実技のクラスではキャンパスや近くの公園をまわり各自で植物のフォルダーを作っていきます。
評価は約250の樹種の学名の記述テストとそれらを使った二つの敷地のデザイン課題でした。

Vegetation Management and Conservation
 毎週一度のレクチャーと実技。週一度のメルボルン付近の異なる植生を持つ自然保護区でのフィールドワーク。そこでは個人もしくはグループに分かれて植物調査を実施し現状と管理レポートをまとめる。このクラスを通して様々な植物群落やそれらの遷移等を学びます。

Traveling Studio (informal settlement)
 行き先や内容はその年によって異なりますが僕の参加したスタジオではインドネシアのジョグジャカルタに行きました。スラムとして理解されているカンポンの都市形態の理解を目的としていました。
正確な地図も存在しないこの場所で現地の学生達と地図作りの作成や提案、そして現地の住民達との触れ合いでは生活を通じて多くの事を楽しく学ぶ事ができました。

Landscape Master Studio (History)
 このスタジオではデザインにおける場の歴史、ナラティブの探求を目的としていました。まずオーストラリアの自然を舞台にした推理小説を読み、その後その舞台となった場所を含め一週間のフィールドトリップをしました。
 それらの体験や訪れた土地の歴史性を推理小説から学んだ表現方法をヒントにそれぞれユニークな形で表現します。 最終的にはそこから異なる敷地でそのストーリの舞台セットとなるランドスケープをデザインするという課題でした。このユニークなデザインプロセスを通じて少し変わった作品が多く仕上がっていました。


フィールドトリップ先のウーメラ

展示風景


Sustainable Urbanism Studio
 僕とっては最後となるスタジオではVictoria Eco Innovation Labという組織を中心にメルボルンの四つの大学(院)のデザインスタジオで設計競技を兼ねそれぞれ進められました。メルボルンの人口急増加に対応するため中心地のブラウンフィールドに7000人を許容するまちの開発を2012年から始めるという報告に対する市からの依頼に反応したモノでした。
 スタジオの前半はグループでの都市デザイン戦略、後半は個人の専門分野における具体的なデザインが課題になりました。

その他
 まだまだおもしろかった授業はありますが、やはり選択科目を利用して自分の興味によって受講クラスは大きく変わってくるかと思います。このプログラムについては、もちろんいい点もあれば不満に思われる点もいくつかありました。
 定員のないデザインスタジオもあり、入ってから人数が多すぎる事を知ったり、これは海外全般に言える事かもしれませんが、日本のように大学の事務的なところがしっかりしていないため不便な面も数多くありました。

最後に
 僕にとっては最初の半年は、課題の以外考える時間もなく一番大変な時期でしたが、後半は設計事務所で働きながら課題をこなしていく余裕ももてました。特に3ヶ月の夏休みを利用して多くの学生はフルタイムで働いていましたが、夏期講習で単位をとり後半の授業数を減らす事でより働く時間を多く持っている人もいました。

 このプログラムの特徴はランドスケープに関する様々な分野を包括的に学ぶ事ができ、それを踏まえながらデザインを中心で学んでいく事ができるという事だと思います。
 ランドスケープの中でやりたい事がはっきりしている人はリサーチコースの方がいいかと思われます。またリサーチの方が奨学金の機会も多いのが事実です。

 後やはり一番大事な点は 様々な国籍、年齢、経験を持った人たちと同じ課題に取り組む中で周りの人から学ぶ事が大変多く、又これからグローバルにランドスケープやっていこうと思う中で大事なパートナーになっていける多くの人達と出会えた事だと思います。

 長くなってしまいましたがご質問のある方は気軽に御連絡ください。




2008年卒業展示会


リンク
メルボルン大学デザイン大学院
http://www.abp.unimelb.edu.au/graduate-school/
ランドスケープアーキテクチャーマスタープログラム
http://www.abp.unimelb.edu.au/graduate-school/pdf/master-of-landscapearchitecture-2009.pdf
認定資格について
http://www.aila.org.au/membership/



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