海外ランドスケープレポート
State University of New York, College of Environmental Science and Forestry
ニューヨーク州立大学院 MLAプログラム

萩 誠さんの留学レポート

はじめに
 私は、現在アメリカ合衆国、ニューヨーク州立大学(State University of New York)のCollege of Environmental Science and Forestry(学生の間では’ESF’と呼びます)という環境に関する学問を統合したプログラムのなかのDepartment of Landscape Architectureの大学院(MLA: Master of Landscape Architecture)で学んでいます。おそらく、全米総合大学のなかで最も長い名前の大学かと思います。


Bray Hall(管理棟として機能しているメインビル)とその前のquad

 ニューヨーク州立大学(略称’SUNY’)システムではニューヨーク州に64ものキャンパスを持っていて、ありとあらゆる教育が行われていますが、Landscape Architectureの学位が取得できるのはこのcollegeだけです。
 一部Landscape Designを専攻できるキャンパスもありますが、アメリカではLandscape ArchitectureとLandscape Designは異なるスキル/レベルとして捉えられています。

Landscape Design:
 主に植物・樹木を使って屋外のスペースをデザインするもの。Planting Design(植物の選択、配置の考案)に近い考え方といえます。

Landscape Architecture(LA):
 植物・樹木以外にも様々な素材を使ってスペースをデザインし、そこには設計の要素がかなり強く入ります。そのためデザインに対する数字的な正確性が求められます。また、そのスペースの背後にある文化、歴史、人々の生活・行動様式などの要素もデザインに影響してきます。公園、コミュニティ、都市空間、リゾート区域のほか、道路そのものも設計の対象となります。

※ちなみにニューヨーク州でLAの学位が取得できる大学は以下の3つしかありません。
Cornell University(コーネル大学):アイビーリーグの一校(私立)。MLA, BLA(Bachelor of Landscape Architecture)
City University of New York(ニューヨーク市立大学):BLAのみ
SUNY ESF:私の所属大学。MLA, BLA


留学前
 学部時代は環境政策を中心に学んでいました。持続的環境のバランスを崩す生態学的なissues(課題)に対し解決策を提案していくというものでした。
 そのため自然環境に対する関心は高く、環境劣化にどう対応したらよいか?特に、自分としてどう役に立てるのか?考えていました。解決の方向としては、工学的(技術的)、化学的、農学的、コミュニケーション、ライフスタイルなど様々なアプローチがありますが、私がランドスケープ分野の存在を知ったとき、これが自分にとっての答えに最も近いと思いました。

 大学院を決めるにあたり、主に米国・英国から幅広く候補を探しましたが、最終的に米国に絞りました。英国の大学院ではurban design(都市計画)に主眼が置かれているところが多く、自分の求める分野、つまりより小規模なスケールにおけるオープン(グリーン)スペースの創造、とは異なるプログラムであると思いました。

 一方、米国の大学院はASLA(全米ランドスケープ協会)が認可したLAのプログラムがほとんどの州に最低一校以上あり、その内容は実践を重視したプロフェッショナルスクールといえます。登録ランドスケープアーキテクトになるための試験が、ASLA公認のこのプログラムに準じていることからも伺えます。そのため、(建築学やランドスケープの学士を持っていない限り)MLA取得まで3年間も要します。

 この大学院に決めたきっかけは、
[1] 全米でも希少な環境専門プログラムのなかのLandscape Architecture学部であったこと、
[2] 州立大学のため(州立のなかでも)学費が比較的安いこと(‘Great Schools, Great Prices’で全米15位)、[3] MLAプログラムのランキングが高かったこと(出願時点で全米9位)。特に、ESFのLAのホームページにもある”A landscape architect must consider not only what is best for the clients and users of a site, but also what is best for nature…Good design tries to consider what is good for the environment…”という考え方には共感しました。

Marshall Hall: Landscapeと環境学が入っているビル


プログラムのメリット・デメリット
 ESFのMLAプログラムのメリットは、
[1] 学生数が少ない(現在同学年は11人)、
[2] そのためか教授と学生の距離が近い(お互いfirst nameで呼び合うのはもちろん、声をかければいつでも時間を取ってくれる)、
[3] 他の環境プログラム(森林生物学部や環境資源工学部など)の講義を選択科目として受講できる、
[4] Syracuse University(私立大学で同じキャンパス内にあります。略称‘SU’)の講義の一部をESFの学費で履修できること。要は州立大学の学費で私立大学の恩恵が受けられるということです。

 私は英語に自信がなかったので、最初のセメスター中はSUで開講される英語クラスを無料で受講していました。またSUの建築学部や美術学部(fine arts)、行政学/都市計画学は全米で最高クラスの評価を受けているので、これから時間が許せば是非履修したいと思っています。

 その一方で、デメリットもあります。あえて述べると、公立大学で建物が古く(私は逆にこの歴史を感じる建築物も好きですが...)作品や模型を制作するためのデザインスタジオの設備が旧く、スペースが限られていること。おそらくCornell Universityではスタジオ設備は大きく新しいでしょう。ただこれは、少人数教育と学費が安いことの裏返しともいえます。また、ESFの図書館だけでは文献が少なく感じますが、SUのすべての図書館等の設備を利用できるので、リサーチをしたりするには問題ないです。


プログラムの内容
 現在は3年のプログラムのうちちょうど前半(1年半)が終了したところです。これまで受講したクラスについて、主なものをお伝えします。

[1年 秋学期]
Design Studio I
 今後様々なデザインをしていく上でベースとなるスタジオクラス。ランドスケープは建物(mass)ではなく空間 (space)をデザインするもの。最初はspaceを意識させるため、座学であったり州立/市立公園を訪れたりして小さなプロジェクトをこなしていきます。その後は2つの大きなプロジェクトが待っています。
 1つは、キャンパスのあるシラキュース市のダウンタウンの歴史的サイトを分析するurban space analysis(グループワーク)。もう一つは、ある作曲家の音楽を聞いてそれをヒントにコンセプトづくりし独自の公園をデザインするmusic garden project(個人ワーク)です。
 大小それぞれのプロジェクトには必ず作品のアウトプットとプレゼンテーションが求められます。プレゼンテーションには外部からも批評家が来るため、締め切り前の数日は、他のクラスのテスト・プロジェクトもこなしながら、みんな深夜まで(時には徹夜で)制作にあたります。

Graphic Communications
 Studioで利用するためのハンドグラフィクのクラスです。デザインの基礎から、plan(平面図)、section/elevation(断面図)、perspective(一点/二点透視図)、axonometric/isometric(不等角/等角投影図)などを学びます。

Planting Design and Practice
 樹木の名前から植え方/手入れの仕方、色や形、デザインまで学びます。毎週Plant Identificationといい、外にある樹木を実際に観察し一般名/学術名の両方を答えるというクイズがあります。Planやsection等で使う樹木のグラフィックもここで学びます。

Natural Processes in Design and Planning
 ランドスケープデザインをする際の重要な要素である自然原理(音/光/温度/風)や、雨水管理、水辺(湿地帯)の生態系について学びます。スタジオのプロジェクト制作において、その既存スペースを調査する際にこの考え方が役に立ちます。

[1年 春学期]
Design Studio II

 デザインにおける理論的な部分にフォーカスし、ランドスケープ設計のプロセスを進めていきます。また、このスタジオでは模型の制作にも注力しました。まずグループワークがありテーマ毎にチームで調査をし、それを最終的な個人のデザインワークに役立てます。
 2つの大きなプロジェクトがあり、前半はmateriality(物質性)に着目し、近代的なデザインのミュージアムの敷地内に決められた物質のみを使ってデザインします。かなりの抽象性とアイデアが要求されました。後半は、observatoryといわれ、眺望の良い場所の特性を活かしながら独自のスペースを創造するプロジェクトでした。

Computer Graphics I
 プレゼンテーションやリサーチドキュメント、ポートフォリオ(作品集)等を作成するために、Adobe Photoshop/Illustrator/InDesignの使い方を習得します。

Construction Technology
 ランドスケープにとって肝となるtopography(地形)について知り、grading plan(土地の形を変化させる設計)が実施できるようになることを目指します。道路の設計も水平/垂直の両方向においてやります。代数学などの計算が頻繁にでてくるため少し高度な計算機を携帯しますが、要領を覚えれば計算自体はそれほど難しくありません。ある問題を解決するために一定の制約の中で土地の形を変えるということ自体やや難しく、何度も頭を悩ませました。今後学ぶConstruction Document(実施設計図)を書くための基礎となります。

[2年 秋学期]
Design Studio III (advanced design studio)
 Design Studioの集大成で、今年は3つのプロジェクトの場所がすべてウォーターフロントでした。Sackets Harbor, NY/ Burlington, VT/ Brooklyn, NYです。先生によると毎年プロジェクトサイトは変えるようです。このスタジオでもまずグループワークで、デザインする予定のサイトを含むエリアをより大きなスケールでプランニングし、個人レベルでそれをどんどん細かなスケールのデザインに落とし込んでいきます。
 このスタジオでは、タウンミーティングで住民の意見をまとめ後日そこでデザインの提案をする機会があったり、卒業生のデザインオフィスやEDAWニューヨーク事務所の協力でプロジェクトを実施したりもしました。

Behavioral Factors in Community Design and Planning
 人間や社会についての行動学からコミュニティ形成過程まで学びます。“人がランドスケープを創り、ランドスケープが人の行動を創造する”という言葉があるように、周辺環境のデザインの仕方次第で人の行動は変わってきます。なぜこの公園には人が多く集まって来るのか、なぜこのコミュニティは常に治安が悪いのか、などについて議論します。


街の様子
  ここESFキャンパスのある街の様子をいいますと、ニューヨーク州のシラキュース市という州のほぼ真ん中に位置しており、ニューヨークシティからは車で4、5時間かかります。そのため、夏は涼しく湿度も低く非常にすごしやすい反面、冬は厳しい豪雪地帯となります。田舎のためか治安はよく、居住コストも低い(現在のところ院生は学生寮に入れません)ので住みやすい環境ですが、地方都市のため公共交通がバスしかなく車を持っていないと生活に不便です。



初雪のBray Hall


アメリカ留学のアドバイス
 このように、アメリカのような大きな国では州により気候条件や都市の雰囲気が本当に多種多様です。大学により多少の特色の違いはあるもののASLA公認のMLA/BLAプログラムであれば全米どこへ行っても似たようなカリキュラムなので、米国内で大学を選ぶ場合、地域性というものを考慮することをお勧めします。

 つまり、プログラム内で行われるプロジェクトの題材は基本的にキャンパスのある都市やコミュニティが対象になることが多く、大都市のアーバンランドスケープがやりたくても、キャンパスが小都市に位置していればそういう機会に恵まれません。
 ESFでも、(一部個人の修士制作等を除き)ニューヨークシティをモデルにするケースは少ないようです。また、地域/州によって生育可能な樹木や背景にある文化等が全く異なりますし、アメリカの登録ランドスケープアーキテクトは州毎にライセンス(試験)が異なるので、その後の進路を考えた場合でも大学(院)選択の時点で住みたい/働きたい州にすることが賢明だと思います。

 最後に、アメリカの大学でクラスとスタジオをこなしていくのはとても大変です(欧州や豪州も同様だと思いますが、少なくとも私にとっては)。大学院になると、内容の密度と高度さ、そして責任感という意味でさらに大変になります。そこに日本の大学とかなりの差を見いだすことができますが、それでもアメリカ人はそれが当たり前のように行動します。
 ランドスケーププログラムの場合、デザインスタジオがある限り、基本的に土日もありません。時間のある限り、少しでも自分のデザインを高めていくことになります。そこに、他のクラスのプロジェクトやペーパー、テストが入ってきます。今セメスターの最後にはスタジオを含め3つのプレゼンテーションが同日に重なりました(あまりにも過酷)。
 ただ、すべてが完成した際には(評価はともあれ)、独特の達成感があり、スタジオのメンバと祝杯を上げにいくのが習慣となっています。また、今セメスターは、ハンドグラフィックスのクラスで運良くティーチングアシスタント(教授の講義サポート)をさせてもらう機会に恵まれ、自分がアドバイスする立場になることで今までと異なった視野を持つができるようになりました。

 この1年半を振り返ると、非常にきつかったのですが、ますますデザインすること自体が好きになり、今ではサイトデザインをより追求したいと思っています。


スタジオでドローイング中


リンク
ニューヨーク州立大学 ESF, Landscape Architecture:
http://www.esf.edu/la/
MLAコース内容:
http://www.esf.edu/la/graduate/mla.htm


プロフィール
萩 誠(はぎ まこと)
 1976年生まれ。関西学院大学総合政策学部(KSC)で環境政策を学ぶ。卒業後、8年間グローバル通信インフラ企業に勤務。多くの、そして大きなプロジェクトもこなしながらも、途中から何か自分に正直になれない自分の存在に気づく。その間にランドスケープ分野の存在について知り、徐々にその創造性と社会貢献性のあるランドスケープの魅力にはまる。自分に真っすぐになれるものかもしれない...という思いが高まり、アメリカの大学院への進学を決意して、今に至る。

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