現在社会は多くの問題点を抱えていますが、世界中のランドスケープアーキテクトとランドスケープもその解決のために日々進歩していきます。ここでは、現在ランドスケープアーキテクツが取り組んでいる活動をいくつか紹介します。
ランドスケープ・アプローチ(Landscape Approach)
ランドスケープアプローチは、「一定の地域や空間において、(土地・空間計画をベースに、)多様な人間活動と自然環境を総合的に取扱い、課題解決を導き出す手法」であり、「持続可能な発展や人々の生活など、多様で総合的な観点なしには対応できない課題を解決し、生物多様性保全と気候変動や持続可能な消費と生産など、関連する課題解決プロセスの架け橋にもなる、成熟した社会づくりにとって重要な考え方」であるとしている。(環境省)
また、統合的土地利用に関する世界最大のプラットフォームであるグローバル・ランドスケープ・フォーラムでは、「ランドスケープアプローチの本質は、土地利用の競合に対して人の福祉と環境にとって最善の方法で釣り合いをとることにあり、それは、食と生計、財政、権利、回復、そして気候と開発のゴールに向けた進展を考慮した解決策を見つけることを意味する」としている。(EICネット)
フィールド・デザイナー(Field Designer)
地域の現場(フィールド)で、科学とデザインを統合しながら課題をケアする実践者。
ランドスケープ・ドクター(Landscape Doctor)
まちや自然の「病気」に対処する、開業医のような存在。災害後の再構築なども含意。
パターン・ケア・デザイナー(Pattern Care Designer)
「パターンランゲージ」を用い、人・地域・環境に対する「ケア」を実践的に行うデザイナー。
リジリエンス・プランナー(Resilience Planner)
災害や崩壊のあと、地域や人のつながりを取り戻すための「回復」計画を支える存在。
ナラティブ・リペアラー(Narrative Repairer)
分断された地域や人の「物語(ナラティブ)」を、科学とデザインで繋ぎなおす人。
デザイン・エコロジスト(Design Ecologist)
デザインと生態(ecology)を架橋し、自然・社会・生活空間の再編成に関わる実践者。
ウェルビーイング(Well-being )
世界保健機関の憲章(1946)で使われた、広い意味での健康を示す用語で、心身の「健康」(狭義の健康)のみならず、精神的な「幸福」と社会的に良好な状態を作る「福祉」の3要素が良好な状況にあることを示す。
我が国の第6次環境基本計画では、「現在及び将来の国民一人一人の生活の質、幸福度、ウェルビーイング、経済厚生の向上」(ウェルビーイング/質の高い生活)を最上位の目標とし、環境政策を起点として経済、社会的な様々な課題をカップリングして同時に解決していく各種政策の統合を図ることとしている。(EICネット)
安全で公正な地球システムバウンダリー(Safe and Just Earth System Boundary)
国際的な科学者チームである地球委員会(Earth Commission)が提唱した概念で、従来からの「地球が安定を保てる(安全な)限界」に、新たに「全ての生物が繁栄することができる(公正な)限界」を加えて、統合的・定量的に地球の資源の限界を示している。(EICネット)
ネイチャーポジティブ(Nature Positive)
生物多様性などの自然資本の損失を食い止め、反転させ、回復軌道に乗せる取り組みのことをいう。ネイチャーポジティブの実現には、世界的なシステム全体の変化や社会経済の変革が必要と考えられており、我が国でも、産官学・NGO等が連携した「2030生物多様性枠組実現日本会議」が行動計画策定に向けた「ネイチャーポジティブ宣言」を発表している。(EICネット)
自然を活用した解決策(Nature-based Solutions[略]NbS )
国際自然保護連合(IUCN)が2009年に提唱し、2016年に「社会課題に効果的かつ順応的に対処し、人間の幸福および生物多様性による恩恵を同時にもたらす、自然の、あるいは人為的に改変された生態系の保護、持続可能な管理、回復のための行動」と定義された。自然を基盤とする解決策、自然に根ざした解決策などとも訳される。(EICネット)
ワンヘルス・アプローチ(One Health Approach)
人の健康、動物の健康及び環境の健全性の確保はそれぞれ独立して扱うのではなく、相互に連携して統合的にとりくむべき課題であるとする考え方。人と自然、人と野生動物のかかわり方の見直しを考える上で注目を集めている。(EICネット)
動物福祉(Animal Welfare[略]AW )
ペット、食糧、医療開発など人間のために動物が使われるのはやむを得ないが、その動物が被る痛みや苦しみは最小限に抑えなければならないという考え方。虐待や遺棄の防止、殺さざるを得ない場合も心理的、肉体的苦痛を与えない方法を採用することなどに加えて、生理的特性や行動などを考慮してストレスの少ない飼育・飼養を工夫すること(環境エンリッチメント)も動物福祉の範疇とされている。動物福祉の対象には、ペットや動物園の展示動物だけでなく、実験動物や家畜なども含まれる。(EICネット)
まちづくりGX
国土交通省が中心になって進めている、気候変動への対応(CO2吸収、エネルギー効率化、暑熱対策等)や生物多様性の確保(生物の生息生育環境の確保等)、WellーBeingの向上(健康増進、良好な子育て環境等)に対応した都市緑地の多様な機能の発揮、エネルギー面的利用の推進に取り組む考え方。(EICネット)
ガーデンツーリズム(Japan Garden Tourism)
ガーデンツーリズムは、複数の庭園がテーマのもとに連携することで、より個性を際立たせ、それぞれの良さを発揮できるように磨き上げを図り、魅力的な体験や交流を創出する取り組みであり、 庭園をめぐる小さな旅から日本のまち・自然・文化をつなぐ。ガーデンツーリズム登録制度(庭園間交流連携促進計画登録制度)は「ガーデンツーリズム計画」を積極的に支援するため、国土交通省が創設した制度。
ランドスケープ・マネージメント
ランドスケープの創出する空間は、時とともに移ろい、維持管理され、運用されていきます。ランドスケープにおいてのマネージメントとは、景観や自然環境、公園緑地といったさまざま創出空間を効率的に維持管理し、よりよく運用・活用を図り、かつ責任をもつことです。
人と自然との両面をコーディネートし、市民と協働を図り、恒久的に魅力を維持しつつ、その価値を最大限に生かした運用を図っていくことが求められています。
ランドスケープ・コード
シンガポールでは、1957年の「ガーデンシティ構想」をうけ、緑化の空間が創出される仕組みを基準化した「ランドスケープコード」が作成されています。
たとえば、商業地区等では、敷地の約30%の面積を公共空間として活用できるランドスケープで覆うことや、デベロッパーが、行政に全体計画を示し、建築費全体の10%を補償金として行政に預け、計画どおりで無かった場合は、行政が指導して改善させること、駐車場は、外部から見えなくなるように緑地帯を設けるか、高木を植栽すること等が規定されています。
こうした必要なランドスケープコードを創出していくことも求められています。
コラボレーション・ランドスケープ
外部空間を取り扱うランドスケープの領域はもともと様々な職種とコラボレーションがしやすい職種といえます。それは建築や芸術家だけの物質的コラボレーションだけでなく、よりよいランドスケープの発展と可能性の探索のために、思想家・人文学者・エコロジスト・教育者など社会を形成する多様な人たちと開かれたコラボレーションが可能であり今後も大きな可能性をもっています。
ご近所ランドスケープアーキテクト
地域の身近な景観や環境のランドスケープデザインについて相談役になれるランドスケープアーキテクトが望まれています。かつて江戸・明治では植木屋とよばれる人たちが、身近な庭から都市の骨格となる森林形成に関わりました。今では各都道府県にも「景観アドバイザー制度」などが整備されています。
園芸療法・福祉・公衆衛生とランドスケープ
愛・地球博開催中、地域の高齢者が病院に行かずボランティアに参加して老人医療費が低減したという話があります。人々が健康に活動できる生活環境やオープンスペースを形成しながら、予防医療や公衆衛生に貢献し、積極的にランドスケープアーキテクトも高齢者社会へ対応していかなければなりません。
ルーラルランドスケープ
現在、食料自給率や農業の諸問題が大きな課題となっている中で、農村環境に関わるランドスケープが求められています。農村景観を整えるだけでなく、里山の放棄や、農業とのふれあい、地産地消、地域資源作物や食に関わるランドスケープも大きな領域になります。
地域活性化とランドスケープ
景観は、地域活性化の要素として認知されるようになりました。ランドスケープアーキテクトは、こうした景観だけでなく、地域の取り組みや空間の魅力形成をハード・ソフト面から関わり合いながら、人が集まる魅了ある街づくりに貢献することができます。
エデュケーション・ランドスケープ
自然と人との折り合いをつけながら、理想の空間を形成するランドスケープは、環境教育教材としてもすばらしい素材といえます。実際に公園づくり授業や環境ワークショップにも登場します。また、子供たちの育成にふさわしい遊び場を提供することによって、子供たちの未来にも関わっていくことができます。
歴史・文化とランドスケープ
歴史的な景観や伝統的な造園技術を形成することによって、ランドスケープアーキテクトは歴史と文化を現代に継承しています。地域の潜在資源を掘り起こし、ランドスケープデザインに展開する手法は、過去と未来をつなぐ技術であるといえます。
もっと美しく快適な環境へ、生物が多様に育めるまちづくりへ。後世に豊かな環境を残そう。
このような声がもっと大きくなるたびにランドスケープはこれからも進歩していくと思います。 |
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